海を飛ぶ夢(DVD)

事故で障がいが残っていらいベッドの上ですごしている。ずっと自死を望んできた。20代のころは海の男だったが、いまでは窓からガリシア地方の寂しい山しかみえない。こんな人物が主人公である。

終盤、家庭用のビデオカメラにむかって、「この25年楽しいことはひとつもなかった」とつぶやく。それはないんじゃないか。同じく難病に苦しむ美人弁護士とも出会えたし(寝たきりハゲおやじと車椅子人妻熟女による月明かりでのキスシーンはいびつにして美しい)、尊厳死の支援者の女性も複数いる。兄も義姉も甥も父も保守的だが信じられない無償の労力を捧げてきた。彼ら自身の比喩を借りれば「奴隷」のように。

人には生きる権利があるが、生は「義務」だったと彼は言う。それはわかる。というよりラモンの言い分はほとんどわかる。ぼくは生きたい人は生き、死にたい人は死んでもいいと思う。尊厳死安楽死も合法化してよいとも思う(逆に死刑は即時廃止すべきだ)。「自分ひとりが死ぬだけだ、大したことじゃない」(評者意訳)とも彼は周囲に言うが、その通りだという気がする。そもそもぼくの考えだから。

だが、それでは残された人々はどうなるのか。いよいよ「計画」が実行されるというとき、支援者のひとりに「お別れ」の電話をする。その女性(いつの間にか弁護士の記録係とデキて子作りもする凡庸な女)は「最後にもう一度よく考えて」とつたえる。「結局、君もそっち側の人間なんだね」とかえされる。その彼女が気の毒でならない。