ひとりも見捨てない−映画「東南角部屋二階の女」について


それぞれの事情で住む所を失った者たちが築何十年かと思われるアパートにやってくる。だが、期限付の仮住まい。いずれ出て行かねばならない。ここは台風に見舞われたりするし、戦争の記憶も残していた。

偶然だがふしぎなコミュニティーが発生する。なかに、父の借金を背負い、貯金も仕事も無くした男がいる。いってみればもっとも深刻な被災者なわけだが、コミュニティーの中心にいる。注意しておくと、中心にいるからといって、それはたまたまで、けっして英雄的に描かれているわけではない。

とりたてて秀でたなにかがあるのではない。ただ、彼の佇まいには、すべてを受け止め、応答しようとする意志がかんじられる。それは実に些細なことかもしれない。見合い相手の振袖のほどけかかった帯をもってやることだったり、無責任な後輩が催促するなんか書くモノを探してやることだったり、ボケてんのかボケてないのかはっきりしない祖父に語りつづけることだったり。そうやってディテールを積み上げて、とにかく今の情況から脱け出そうとするのだ。

いわずもがなだけど、政治的なリーダーシップとはなんの関係も無い。こうした人間は、見えづらいかもしれないが、いたるところでたちあがりつつある気もする。ぼくはそう信じる。野上(西島秀俊)とはそういう男だ。