ロウアー・マンハッタンを掠める

牛乳だけ買いに出た時、歯磨きセットを忘れたが、あきらめだ。機内の乾燥ひどくリップクリームも欲しいところ。いずれにしても睡眠先行だが。気を失って目が覚めたら2時間しか経っていなかった。ぼけ〜と過ごして、また無理矢理2時間。想定内。なんとか1日もつだろう。ただ、寝起きに泣いたから目が痛い(誰か言っといてよと思うほど、救われないほど哀しいもの…。これほどこたえるかという)。

コーヒーメーカー、パンのかけら、水道水。バルコニーは嬉しい。曇りで寒いけど。隣接タワーコンドミニアムの一室から漏れる妖しげな照明にはうす笑いである。


足のバンソコだけ入念にして、グリッドを北上。地下鉄へ。GLからごく浅いところを通っている。これならパスで(バスも)乗りたおせる(すぐ来ればの話だが。時刻表なんか無いよ。よう揺れて)。

グラウンドゼロ。といっても、ぼくが見てきたものは工事現場にすぎなかった。写真を撮ったって仕方ない。徒労だろうか。


シティ・ホール前の公園が近かったので、ベンチに座る。「ウールワース・ビル」が仰げるためでもあった。垂直強調にゴシックの衣装は妥当。デザインの密度は並列にできないが、スターリン様式に似ていると思った。「錯乱のニューヨーク (ちくま学芸文庫)」の著者が狂うわけである。


ところで、ふつう、ヨーロッパにおいては、市庁舎前広場がその都市の一番中心であるのだが、マンハッタンの中心はここにはない。タイムズ・スクエアか。ロックフェラー・センターか。「ビッグ・アップル」(=この都市の愛称)だけに、5番街に近頃出現した「アップル・ストア」が新たな中心になったりしてね。なんとも味気ないけど。24時間光ってるしか能のないガラスの箱だぜ。

それはとにかく、市庁舎そのものも映像として浮かばない。結局、行かず終い。「ワールド・ファイナンシャル・センター」は、アトリウムよりはハドソン・リバーまで抜けたらすっとした。にしても、なんでこんな縁もゆかりもない場所に行きたくなるのか。建築マニアも考えもの。発見は、ゾーニング法以前の遺構「イクイタブル・ビル」が展望しやすいことくらい。さあ、ウォール街は素通りしてこの地区を後にしよう。